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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)6753号 判決

原告

在原孝太郎

被告

小谷松好雄

主文

一  被告は、原告に対し、金二二一六万〇三二〇円及び内金二〇六六万〇三二〇円に対する昭和五五年七月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四五二八万五〇六一円及び内金四一一八万五〇六一円に対する昭和五五年七月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年七月一日午後七時ころ

(二) 場所 東京都練馬区豊玉北二丁目四番先交差点

(三) 加害車両 普通乗用自動車(練馬五七ま九〇一三号)

右運転者 被告

(四) 被害車両 自動二輪車(練馬め一四五五号)

右運転者 原告

(五) 事故態様 被害車両が事故現場の交差点を直進走行中、自車進行方向右側の脇道から右交差点に進出してきた加害車両が衝突した(以下右事故を「本件事故」という。)。

2  原告の受傷及び治療経過

原告は、本件事故により、左上腕骨及び尺骨頭開放複雑骨折の傷害を受け、昭和五五年七月一日及び二日の二日間富田病院に入院し、同年三日から同年八月二八日まで東京女子医科大学病院に入院し、同月二九日から昭和五七年五月二四日まで同病院に通院し、同五七年五月二五日から七月一〇日まで同病院に再入院し、同月一一日から昭和五八年一月二五日まで同病院に通院し、治療を受けたが治癒せず、同日症状が固定し、右肘関節の強直(屈伸不能)、左上腕短縮(約二センチメートル)の後遺障害が残り、右は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表後遺障害別等級表第七級に該当する。

3  責任原因

被告小谷松は加害車両を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条の規定に基づき(人的損害に限る)、また本件事故は同被告が優先道路に進出する際進路左方の安全確認を怠り漫然と横断直進した過失により惹起されたものであるから民法七〇九条の規定に基づき、原告が被つた損害を賠償すべき責任を負う。

4  損害

(一) 治療関係費 金三七四万三九七一円

原告は、治療関係費として、前記富田病院で金一九万円、前記東京女子医科大学病院で金三五五万三九七一円を要した。

(二) 付添看護費 金三六万四〇〇〇円

原告は、前記東京女子医科大学病院に入院(一〇四日)中、付添看護を要する状態にあり、原告の妻が右の全期間付添看護にあたつたが、付添費用としては、一日当たり金三五〇〇円が相当であるからその合計は金三六万四〇〇〇円となる。

(三) 入院雑費 金一〇万四〇〇〇円

原告は前項の入院期間中、雑費として一日当たり金一〇〇〇円を要し、その合計は金一〇万四〇〇〇円となる。

(四) 休業損害 金二九四万九〇〇〇円

原告は、本件事故当時株式会社デトロイトモータースに勤務し、月額金一七万五〇〇〇円(賞与年間三ケ月分)の給与を受け、昭和五六年一一月からは月額金二五万円(賞与は右に同じ)の給与を受けていたものであるが、本件事故による受傷のため、昭和五五年七月一日から同年一二月五日までの一五七日間及び同五七年五月二四日から同年一〇月三〇日までの一六〇日間就労が不可能な状態にあつた。そこで前記所得額を基礎に原告の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、金二九四万九〇〇〇円となる。

計算式(1) 175,000÷25×157+250,000=1,349,000

(2) 250,000÷25×160=1,600,000

(1)+(2)=2,949,000

(五) 逸失利益 金三五四二万二三八〇円

原告は昭和二八年一〇月二五日生(症状固定時二九歳)の男子で、本件事故がなければ六七歳までの三八年間稼働可能でその間少なくとも年額金三七五万円の所得を得られた筈であるが、本件事故による後遺障害のためその労働能力の五六パーセントを喪失したからこれを基礎に、ライプニツツ式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して、原告の逸失利益の症状固定時における現価を算定すると、次の計算式のとおり金三五四二万二三八〇円(一円未満切り捨て)となる。

計算式 3,750,000×0.56×16.8678=35,422,380

(六) 慰藉料 金八四〇万円

原告の前記傷害の内容・程度、入通院治療期間(入院三・五ケ月、通院一二ケ月)、後遺障害の内容・程度に照らし、その精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、傷害分が金一七〇万円、後遺障害分が金六七〇万円とするのが相当である。

(七) 車両損害 金五四万四六五〇円

原告は被害車両の所有者であるところ、同車は本件事故により大破し修理不能の状態となつたが、修理費用を限度として金五四万四六五〇円の損害を被つた。

(八) 損害のてん補

原告は、損害のてん補として、加害車両の加入する自賠責保険から金七九二万円、労災保険から金二四二万二九四〇円の各支払を受けた。

(九) 弁護士費用 金四一〇万円

被告は損害額の任意支払に応じないため、原告は原告訴訟代理人に本訴の提起追行を委任することを余儀なくされた。本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用としては金四一〇万円が相当である。

(一〇) 前記(一)ないし(七)及び(九)の金額から(八)のてん補額を控除すると残額は金四五二八万五〇六一円となる。

5  よつて、原告は被告に対し、金四五二八万五〇六一円及び弁護士費用を除いた内金四一一八万五〇六一円に対する本件事故発生の日である昭和五五年七月一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中(一)ないし(四)の事実及び(五)の事実中加害被害両車両が本件交差点内で衝突したことは認め、その余は不知。

2  同2の事実は不知。同3の事実中、被告が加害車両の運行供用者であること、被告が加害車両を運転し進路左方の安全確認を怠つた過失のあることは認め、その余は争う。

3  同4の事実は不知

三  抗弁(過失相殺)

本件事故現場は交通整理の行なわれていない交差点で、原告は被害車両を運転して右交差点を直進進入するに際し右方交差道路から同交差点内に直進進入してきた被告運転の加害車両を認めながら、被告が被害車両の通過を待つてくれるものと軽信し、その動静注視不十分のまま時速約五〇キロメートルで運転を続けたため、本件事故が発生したものであり、原告にも右方の安全確認を怠つた過失があるから原告の損害額から相当の過失相殺減額をすべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実中(一)ないし(四)の事実同(五)の事実中加害被害両車両が事故現場交差点で衝突したこと及び同3(責任原因)の事実中被告が加害車両の運行供用者であること、及び被告が加害車両を運転し進路左方の安全確認を怠つた過失のあることは当事者間に争いがない。したがつて原告は自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条の規定に基き原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。

二  事故の態様及び過失相殺の抗弁について判断する。

成立に争いのない甲第一号証の三ないし六、九、一二、一三、原告本人尋問の結果により事故現場を撮影したものと認められる甲第九号証の一ないし四、被告及び原告各本人尋問の結果によれば、

1  本件事故現場は、別紙図面のとおりで、市街地にあつて目白方面から谷原方面に通ずる車道幅員約一六・六メートルの道路中央の金網フエンスにより上下線が区分された片側三車線(片側幅員は道路左端寄り車線が約一・六メートル、中央の車線が約三・四メートル、中央線寄り車線が約三・三メートル)のアスフアルト舗装され、歩車道の区別のある平担な直線道路(以下「甲道路」という。)と、豊玉上一丁目方面から豊玉中一丁目方面に通ずる幅員約五・七メートルのアスフアルト舗装された平坦な直線道路(以下「乙道路」という。)がやや斜めに交差する交差点で、甲道路は乙道路に対し優先道路となつており、乙道路の本件交差点手前には一時停止の標識及び道路標示があり、甲道路の目白方面寄り交差点手前には信号機(歩行者用及び甲道路進行車両用)により交通整理のされた横断歩道(幅員約四・三五メートル)がある。現場は照明により夜間でも明るく、甲乙両道路とも前方の見とおし状況は良好だが、交差点左右の見とおし状況は悪い。なお甲道路の最高速度は毎時四〇キロメートルに規制されている。

2  被告は、加害車両を運転して乙道路を豊玉上一丁目方面から豊玉中一丁目方面に向け進行し、本件交差点手前に至つて、一時停止後緩やかに前進して本件交差点内に進入したが、左方からの走行車両はないものと軽信し、そのまま時速約二〇キロメートルに加速して直進したところ、交差点を通過し終える直前の地点(別紙図面〈×〉地点付近)で、被害車両の存在に気づかぬまま自車左側面と被害車両前部が衝突した。

3  原告は、被害車両を運転して甲道路の道路左端寄り車線と中央車線の境付近を目白方面から谷原方面に向け時速約五〇キロメートルで進行し、前記甲道路横断歩道の東側端から約四九・七五メートル手前の地点で対面の信号機が青色を表示しているのを確認し、それと同時位に道路中央の金網フエンス越しに乙道路の交差点入口付近に加害車両を認めたが、同車は自車の通過を待つて進行するものと速断し、そのままの速度で進行を続けたところ、加害車両が交差点中央付近に進入してきたのを約二〇・六五メートル右前方に発見し、急ブレーキをかけて左転把したが間に合わず、衝突した。

以上の事実が認められ、前記甲第一号証の三、五、一二には、被告が本件交差点進入時に甲道路の車両用信号(別紙図面〈甲〉)が黄色を表示しているのを確認した旨の記載部分があるが、原告本人尋問の結果に照らし、直ちに措信できず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、被告には左方優先道路の車両の有無を確認せず本件交差点に進入した過失があり、他方原告には右方道路の交差点入口に加害車両を認めながらその動静を注視せず減速をすることもなく制限速度を超過した速度で進行を続けた過失があるものというべきで、右過失の内容、事故態様、事故現場の状況等を考慮すると、原告の損害額から二〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

三  原告の受傷及び治療経過

成立に争いのない甲第一号証の七、八、第五ないし第七号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし一一及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故により左上腕骨開放骨折、上唇挫傷、尺骨骨折の傷害を受け、富田病院(昭和五五年七月一日及び二日の二日間)、東京女子医科大学病院整形外科(同年同月三日から同年八月二八日まで五七日間及び昭和五七年五月二四日から同年七月六日まで四四日間)に入院し、また同病院に通院(昭和五五年九月三日から昭和五七年五月二三日まで及び同年七月七日ころから昭和五八年一月二五日まで)して治療を受けたが、治癒せず、同日(昭和五八年一月二五日)症状が固定し、右肘関節が屈曲二五度の肢位にて強直し屈伸不能で改善の見込なく、また骨欠損のため上腕が約二センチメートル短縮した後遺障害が残存し、自賠責保険により自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表第八級に該当するものと認定されたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  損害

1  治療費 金三五五万三九七一円

前記甲第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし一一及び原告本人尋問の結果によれば、原告は治療関係費(東京女子医科大学病院における治療費及び文書料)として金三五五万三九七一円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。なお原告は富田病院でも入院治療を受けておりその治療費を要したものと認められるが、要した費用額を認めるに足りる証拠はなく、右事情は慰藉料額の算定にあたり斟酌することとする。

2  付添看護費 金三〇万三〇〇〇円

前記原告の受傷の部位・程度及び原告本人尋問の結果によれば、原告は東京女子医科大学病院に入院(一〇一日)中付添介護を要する状態にあり原告の妻が右期間付添介護に当たつたことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、近親者の付添費としては一日当たり金三〇〇〇円が相当であるから、その合計は金三〇万三〇〇〇円となる。

3  入院雑費 金八万二四〇〇円

原告は前記の入院期間(合計一〇三日)中、雑費として一日当たり金八〇〇円を要したことが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、その合計は金八万二四〇〇円となる。

4  休業損害 金二四六万八三五五円

原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一一、第一二号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故当時株式会社デトロイトモータースに勤務し、月額金一七万五〇〇〇円、賞与年間三か月分、昭和五六年一一月から月額金二五万円、賞与年間三か月分に昇給した所得を得ていたところ、事故による受傷のため症状固定まで、昭和五五年七月一日から同年一二月五日までの間の一五七日間、及び昭和五七年五月二四日から同年一〇月三〇日までの一六〇日間休業を余儀なくされ右期間の給与及び昭和五五年一二月分の賞与金二五万円の所得を喪失したことが認められる(右認定を左右するに足りる証拠はない。)。そこでこれを基礎に原告の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり、金二四六万八三五五円(一円未満切り捨て)となる。

計算式{(175,000×12÷365×157)+250,000}+(250,000×12÷365×160)=2,468,355

5  逸失利益 金二五三〇万一七〇〇円

前記甲第六号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和二八年一〇月二五日生(症状固定時二九歳)の男子で、本件事故後前記会社を退職して昭和五九年三月ころから内装業に転じたが左肘が不自由なため月額約一四ないし一五万円程度の所得を得ているに止まることが認められ(右認定を左右するに足りる証拠はない。)、これに前記後遺障害の内容・程度、原告の職業・年齢その他の事情を考慮すると、原告は症状固定日の翌日から六七歳までの三八年間その労働能力を四〇パーセント喪失したものと認められ、前記症状固定時の原告の所得を基礎に、ライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して逸失利益の症状固定日の翌日における現価を算定すると、次の計算式のとおり金二五三〇万一七〇〇円となる。

計算式 (250,000×15)×0.4×16.8678=25,301,700

6  慰藉料 金六五〇万円

原告の前記受傷の部位・程度、入通院期間、後遺障害の内容・程度その他諸般の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料としては、傷害分金一五〇万円、後遺障害分金五〇〇万円が相当と認める。

7  車両損害 金五四万四六五〇円

成立に争いのない甲第一号証の一一、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は被害車両の所有者であるところ、本件事故により同車は大破して修理不能の状態となり、少なくともその修理費相当額である金五四万四六五〇円の損害を被つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

8  以上を合計すると金三八七五万四〇七六円となる。

9  過失相殺

右8の金額から二〇パーセントの過失相殺減額をすると残額は金三一〇〇万三二六〇円(一円未満切り捨て)となる。

10  損害のてん補

原告が、自賠責保険及び労災保険から、損害のてん補として合計金一〇三四万二九四〇円の支払を受けたことは原告の自認するところである。前記9の金額からてん補額を控除すると残額は金二〇六六万〇三二〇円となる。

11  弁護士費用

本件訴訟の難易、審理経過、認容額その他の事情を考慮すれば、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては金一五〇万円が相当と認める。そうすると原告の損害額は合計金二二一六万〇三二〇円となる。

五  以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は金二二一六万〇三二〇円及びこれから弁護士費用を除いた内金二〇六六万〇三二〇円に対する本件事故発生の日である昭和五五年七月一日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由なしとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本久)

別紙図面

〈省略〉

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